夫の借金
2012年5月 ホワイトペッパー掲載
Q:夫が多額の借金を残したまま亡くなりました。私と子供はこの借金を払わなくてはなりませんか。
できれば,生前に自己破産等の手続きを取って借金を処理し,遺族になるべく借金を残さないようにしておきたいものです。しかし,不幸にして借金を残したままお亡くなりになった場合,結論から言いますと,夫の残した借金も原則として相続分に従って相続人が承継することになります。
こうした債務を免れる方法として,家庭裁判所で相続放棄の手続きを取ることがあげられます。この手続は,相続人が相続開始を知ったときから原則として三か月以内に行うことが必要です(熟慮期間)。もっとも,相続放棄の手続きをすると,被相続人の残した財産も放棄することになりますので,残った財産と借金とをよく調べ,相続するべきか相続放棄するべきかを判断する必要があります。
先ほどの熟慮期間は,伸長する手続きを取ることもできますし,また場合によっては限定承認という手続きを取った方が有効な場合もあります。いずれにしても,早急に亡くなった方の資産,債務の状況を調査する必要が生じます。お早めに専門家にご相談ください。
借金の整理
2012年6月 ホワイトペッパー掲載
前々回,私がこのコーナーで相続の話をした際,遺族に借金を残さないためにも生前に借金の整理を,と書きました。もっとも,自己破産については抵抗のある方も多いと思います。皆様の疑問・不安を大別しますと,①本当に借金はなくなるのか?②みんなに自己破産したことが知られるのでは?③破産すると,今の仕事をやめなければならないのでは?③破産すると,債権者に迷惑をかけてしまう,といったところではないでしょうか。今回は,こうした疑問,不安についてお答えしたいと思います。
まず,①本当に借金はなくなるのか?という疑問については,一部の債務を除いて債務の支払いが免除(これを「免責」といいます。)される,つまり借金はなくなります。何年かたてば復活するということもありません(復活すると思っている方も多いんです。)
では,免責されない債務はどんなものかといいますと,税金や,婚姻費用,養育費,罰金等です(破産法253条)。
ついつい税金よりも他への支払いを優先しがちですが,税金は免責されないため,滞納税が原因で,結局破産をしても生活再建がうまくいかない場合も見受けられます。滞納する前に,早めにご相談いただきたいと思います。
婚姻費用,養育費について言いますと,当然には支払いが免除されないものの,場合によっては減額調停を別途起こすことによって減額することも可能です。
次の私の担当回では,残りの②から④の疑問についてお答えします。
自己破産
2012年7月 ホワイトペッパー掲載
前々回に引き続き,自己破産についてご説明します。
まず,②みんなに自己破産したことが知られるのでは?という疑問ですが,確かに破産すると官報に載ります。しかし,官報自体メジャーではなく,読んでいる人は極めて限られています。その他,会社に直接破産の事実が知られるということは,通常考えられません。むしろ,支払いが滞った場合,給与が差し押さえられることがありますので,自己破産せずに債務を放置していた方が会社に借金の事実が露見するリスクが高いと言えます。
次に,③破産すると今の仕事を辞めなければならないのでは?という疑問についてお答えします。生命保険の募集人,警備員などの法律が定める一定の職業については,破産手続きが終わるまでの間,その職に就くことはできません(弁護士もそうです。)。しかし,それ以外の一般的なサラリーマンや公務員の方については,仕事を辞める必要はありません。逆に,何らかの事情で会社に借金のことが知られたとしても,それを理由に解雇することは通常はできません。
最後に,④破産すると,債権者に迷惑をかけてしまう,という不安についてですが,これは考え方次第と思います。自己破産が必要な場合,すでに借金を返すことが無理な状態になっているはずです。そのまま放っておいても,返せない状態をずるずると続けるだけです。そして,新たな借入先を探し,返せない相手先を増やしていくだけとなっていきます。借金を返すのが困難と感じた場合,早め早めに対処してくことが,結果として自分や家族,周囲の人,債権者に迷惑をかけないことにつながります。お早目に専門家にご相談ください。
保証人
2013年2月 ホワイトペッパー掲載
皆さんの周りに,保証人になって困っている方はいませんか?今回は,保証についてお話します。
保証には,通常保証と連帯保証とがありますが,現実には連帯保証となっているのがほとんどすべてのケースです。
保証も連帯保証も,いずれも主債務者の代わりに債務を履行するという点では同じです。しかし,連帯保証の場合,債権者から請求されると,主債務者に財産があろうとなかろうと請求された連帯保証人はまず債務全額を支払わなければならない義務を負います。また,たとえ他に連帯保証人がいたとしても,請求された保証人が全額を支払う義務があり,場合によっては連帯保証人の財産を差し押さえられます。つまり,連帯保証人は,主債務者と同等の第一次的な責任を負い,債権者としては,主債務者でも連帯保証人でも,誰か一人でも財産を持っていればその人の財産から債権全額を回収することができるのです。
しかし,実際にはこうしたリスクをあまり意識せずに保証人となってしまうケースも多いようです。保証は,今すぐにお金を出するわけではないので,将来の負担を現実のものと考えずに応じてしまいやすく,そのため頼まれたら断りにくい性質のものと言われます。
一度保証人となってしまうと,場合によっては莫大な債務を負いかねず,保証人となったばかりに破産に至る人や,また自殺に追い込まれる人も相当数に上っています。
こうした実情から,最近では一定の例外を除いて個人保証を原則禁止する動きとなっており,私たち弁護士も国に働きかけ,実際国の審議会でも検討段階に入りました。
保証は,身近な問題です。担保には,保証に頼らなくても,不動産を担保に取ることも,また譲渡担保といった様々な手段があります。皆さんにも保証の恐ろしさに関心を持っていただき,地域からの声を上げていただきたいと思います。
婚姻費用
2012年10月 ホワイトペッパー掲載
最近,離婚に先立ち生活費の相談を受けることがあります。そこで,今回は,婚姻費用について改めてご説明します。
例えば,あなたが未成熟のお子さんを連れて家を出たとします。この場合,あなたは,相手方配偶者に対して,一定の婚姻費用を請求することができます。
民法760条は,「夫婦は,その資産,収入その他一切の事情を考慮して,婚姻から生ずる費用を分担する。」と規定しています。そして,この義務は,夫婦であることから直接生じるもので,たとえ別居していても負担するものとされています。
では,婚姻費用を請求された相手方配偶者は,具体的にいくら払うのでしょうか。
一般的には別居中の配偶者と子供が自分と同様の生活レベルを維持できる金額とされています。しかし,実際には家庭によって事情も千差万別で,「同様の生活レベル」と一言で言っても一様ではありません。そこで,最近では,夫婦お互いの収入に応じて一定の相場が決められ,これによって算定されるようになってきています。
この婚姻費用は,まずは夫婦の話合いで合意されればその額を支払うことになりますが,それができない場合,家庭裁判所に調停を申し立て,まずは調停で話し合うこととなります。もし,調停でも話し合いがつかない場合は,裁判所が審判をすることにより負担額を決めることとなります。
ただし,調停→審判の手続きには,それなりに時間を要します。もし,調停を申し立てた際に当面の生活費にも困っている場合には,裁判所に調停前の仮の措置として生活費の仮払い命令を求めることができます。
離婚を考えた場合,生活の不安が先立ち,婚姻関係をどうしていいか判断できなくなっていることも多く見受けられます。まずは婚姻費用を請求して生活を落ち着けることも一つの手段だと思います。
国際結婚
2013年7月 ホワイトペッパー掲載
安藤美姫選手と言えば,ロシア出身の某コーチとの間に噂がありましたね。今回のお子さんの父親についても,巷ではいろいろな噂が流れています。
さて,安藤選手の話は置いておいて,めでたく外国人の父親と結婚となった場合,その手続きはどうなるのでしょうか。
まず,大抵どの国でも,結婚の要件について法律で定めています。そして,日本人と外国人とが結婚する場合,日本人は日本の法律,外国人はその人の本国法の結婚要件をそれぞれ満たしている必要があります。
そこで,その外国人は。国籍証明書と婚姻要件具備証明書とを大使館に発行してもらい,役所に提出する必要があります。
さて,国際結婚で生まれた子供の国籍はどうなるかというと,まず日本の法律で,両親のいずれかが日本人であればその子は日本国籍を取得します。母親が日本人であれば,その子は日本国籍をまず取得します。
問題は,外国籍も取得するかです。これには,その外国の法律が国籍の取得についてどのような制度を取っているかによります。
国籍取得の制度は,大きく血統主義と生地主義とに分かれます。血統主義とは,親のどちらかの国籍が子の国籍になるとする主義のことで,生地主義とは,親がどこの国の国民であろうと,自国で生まれた子は自国民となる主義のことです。
生地主義を採用しているので有名なのはアメリカで,アメリカ国内で生まれれば,その子はアメリカ国籍も持つことになります。したがって,日本国籍との二重国籍となるのですが,三か月以内に国籍留保の届け出をしておかないと子供は日本国籍を失うことになりますので,注意してください。
外国人との結婚には国籍の問題や手続の問題で日本人同士の結婚とはまた違った問題が出てきます。こうした問題を超えるのも,愛の力,なのでしょうね。
不貞行為①
2013年8月 ホワイトペッパー掲載
古くは金曜日の妻たちへ,失楽園など,名作ドラマには不倫をテーマにしたものが多く見られます。それだけ,不倫は人を惹きつける魅力があるのかもしれません。しかし軽い気持ちで不倫をしてしまうと,後で手痛いペナルティを払うこととなりかねません。
妻が,夫以外の男性と不倫をした場合について考えてみましょう。
夫婦は,互いに貞操を守るよう要求する権利があり,また平穏な婚姻生活を送る権利があります。不貞行為は,こうした夫の貞操要求権や平穏な婚姻生活を送る権利を侵害するものであり,民法上の不法行為となります。
不倫は,当然一人ではできません。必ず相手がいるもので,その不倫の相手方は不倫をした妻と共同で夫の権利を侵害していることとなり,不倫の相手方も共同不法行為者となります。その結果,不倫相手の男に対しても損害賠償(慰謝料)を請求できます。
ただし,例えば,夫婦関係が妻の不倫行為と関係なくすでに破たんしている場合は,もはや夫は夫婦としての権利を要求することが困難ですので,不倫の相手方に対して慰謝料を請求することはできません。
また,不倫相手が妻の婚姻の事実を知らなかった場合は,そもそも不法行為の認識がないので,やはり損害賠償は請求できません。
さて,実際に不倫相手に対して損害賠償を請求できるとして,その金額ですが,婚姻関係の長さや,不貞の期間,程度,不貞に至る経緯,婚姻生活への影響等の事情によってまさに千差万別です。ざっくりと,離婚にまで至っていない場合で五十万円から百万円,離婚に至った場合で百万円から三百万円が目安でしょうか。ただし,一回限りの不貞行為などの場合は,そこまでの慰謝料が認められないこともあります。
いずれにしても,気軽な火遊びが大火事にもなりかねません。くれぐれも一時の感情に流されず,慎重に行動してください。
不貞行為②
2013年9月 ホワイトペッパー掲載
いざ,不貞行為をした配偶者とその相手方に法的手続きを取ろうとしたとき,立証の壁が立ちはだかることも少なくありません。
まず,配偶者の不貞の事実は,法的な請求をする側で立証しなければなりません。
ここで,不貞行為=性的関係を結ぶことを言いますが,不貞行為がまさに当事者だけの秘め事なので,当事者双方が事実を否定して,立証が困難ということも多くあります。
そこで,事前の証拠集めが大事になりますが,どういった証拠を集めるべきかというと,こればかりは千差万別で,どれを集めれば大丈夫,というのはありません。
例えば,二人が飲食を共にしている程度であれば,不貞行為まで推認するのは難しいでしょう。これが宿泊施設まで一緒になったとすると,通常の感覚からして,不貞行為に至ったと推認されやすいと思います。ただし,その場合でも,人違いだとか,眠くて寝ただけだとして事実を否定されることもあります。しかし,同宿が度重なっているようであれば,常識に照らして不貞行為に発展しているとなりやすいでしょう。
その他にも,例えば電子メールに不貞行為をほのめかす内容のやり取りが残っている場合もあります。私が経験したケースでは,配偶者の持ち物に録音機を忍ばせて,不貞の様子を録音していたというのもあります。
また,とにかく配偶者の行動を,毎日,事細かに正確に記録しておくことでも,場合によっては証拠となり得ます。
配偶者の怪しい行動に気づき,不貞行為が疑われるとき,配偶者を問い詰めがちです。たとえ配偶者が不貞行為を認めたときでも,後で否定されることもありますし,また不貞行為の期間をごまかされることもあります。
あふれる心配と悔しさと怒りとをぐっとこらえて,慌てず騒がずじっくりと相手方を観察し,できるだけ多くの客観的な証拠を集めるしたたかさも,時には必要かもしれません。
嫡出否認
2013年12月 ホワイトペッパー掲載
新年あけましておめでとうございます。本年も,どうぞよろしくお願いいたします。
昨年末に,某芸能人同士の間の子供が,実は父親が別な男性だったと週刊誌で報じられたことがありました。
婚姻関係にある男女間で懐胎,出生した子供の事を嫡出子と言います。結婚後,二百日後に生まれた子供は,婚姻中に懐胎したものと推定され,夫の嫡出子と推定されます。
もっとも,嫡出推定が及ぶ場合でも,実は妻が他の男性と浮気をしていて,その男性との間の子供だということもあるでしょう。
この場合には,嫡出否認の訴えを提起しなければなりません。
しかし,この嫡出否認の訴えは,いつでも誰でもできるわけではありません。
まず,夫が子の出生を知った時から一年以内にしなければならず,夫が一度自分の子供と認めれば,以降この訴えを起こすことはできません。しかも,当該夫だけが訴えを提起でき,母親や子供,また本当の父親からも否認することはできません。
このように,嫡出を否認できる場合が限定されているのは,親子関係を早期に確定して,家庭の平和を守るためと言われています。
確かに,DNA鑑定のような,後になって親子関係を確認する方法がなかった時代はそれでよかったのかもしれません。しかし,現代では,後になってからも,科学的に,高確率で親子関係を判定できるようになりました。
前述のように,民法の建前からすると,夫が出生を知ってから一年を経過する前に嫡出否認の訴えをしない限り,たとえ後になって親子でないことが判明しても,もはや親子関係を争えなくなるのが原則です。
しかし,最近では,親子でないことが明らかな場合は,そもそも嫡出推定が及ばないとして,後になって親子関係不存在確認の訴えなどによって親子関係を否定できるとする考えも有力になっています。
もっとも,この辺の考えは,法学者の間でも揺れ動いているところです。
離婚原因
2014年2月 ホワイトペッパー掲載
相変わらず,芸能人の離婚が続きます。先日も,女医の西川史子さんが離婚を発表しました。夫になかなか離婚届けに判を押してもらえず,離婚が伸びたという噂もあります。
相手方が離婚に応じず,協議離婚の見込みがない場合,まずは家庭裁判所に調停の申し立てをしなければなりません。いきなり離婚の裁判を起こすことは原則としてできず,まずは調停で話し合いの場を設けるのです(これを,調停前置主義と言います。)。
調停は,一言でいうと,調停委員と裁判官を間に挟んで,仲介してもらいながら行う話合いです。そのため,待合室も別々に設けられ,また双方の言い分も,それぞれ交替で聞かれます。調停室には,片方ずつ呼ばれるため,当事者が顔を合わせることもありません。
調停でも合意に達しなかったら,調停は不成立となり,次の段階として離婚の裁判を起こすことになります。
裁判になっても,場合によっては和解の話し合いが続けられ,そこで離婚について合意に達すれば和解による離婚となります。
しかし,話合いでも夫婦の一方が頑として離婚に応じない場合は,裁判所が判決で離婚を認めるか決めることになります。
裁判離婚が認められる場合としては,法律で①配偶者に不貞行為があった場合,②配偶者から悪意で遺棄された場合,③配偶者の生死が三年以上不明な場合,④配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがないとき,⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき,に限られています。離婚を求める側は,この五つの離婚原因のいずれにあたるのか,具体的に主張・立証しなければなりません。
また,配偶者が長年行方不明なため離婚したいという場合もあると思いますが,その場合も公示送達の方法を取ることにより訴訟を起こすことができます。この場合は,調停を行っても行方不明の相手方が出席することはありませんので,調停を申し立てても無意味となります。そのため,この場合,訴訟に先立って調停を申し立てる必要はありません。
内縁関係
2014年3月 ホワイトペッパー掲載
先日,俳優の宇津井健さんがお亡くなりになりました。お茶の間でもおなじみの名優がこの世を去り,さびしい限りです。
宇津井さんについては,亡くなる直前に婚姻届を出していたことで話題になっています。宇津井さんは,純粋な気持ちから籍を入れたので,それに法律的な話を絡めるのは無粋な気もするのですが,せっかくの機会ですので内縁関係について整理したいと思います。
内縁関係とは,婚姻の社会的実体はあるが婚姻届けの出されていない男女の関係を言います。内縁と言えるためには,具体的には,①婚姻意思があることと,②これに基づいた共同生活があることが必要です。
そのため,例えば,婚姻を想定しない恋愛関係や,婚姻意思を欠く婚約,共同生活はあるが婚姻意思を持たない関係(愛人関係)などは原則として内縁に当たりません。
宇津井さんと女性とは,6年前に結婚式も上げ,以降同棲していたので,内縁関係として認められると考えられます。
内縁と認められると,できるだけ婚姻関係と同様の法的保護を及ぼそうというのが最近の考え方で,例えば,婚姻費用分担義務や同居協力扶助義務が認められますし,内縁期間中の不貞行為については,損害賠償請求の対象となります。また,仮に内縁関係が解消された場合は,財産分与も認められます。
ただし,内縁者には相続権は認められません。この辺が,法的保護の限界と言えます。
被相続人に法定相続人がいない場合には,特別縁故者として遺産の分配を受けることもできますが,被相続人に子供,父母,兄弟姉妹がいる場合は困難です。
対策としては,例えば,遺言をしておくことや,生前贈与を行うなどの方法がありますが,遺留分を取り戻されることもあります。
ちなみに,宇津井さんの場合については,女性自身事業で成功しており,決して財産目当てでの結婚ではありませんので,念のため。
不貞関係
2014年4月 ホワイトペッパー掲載
許されない男女の関係についての言葉といえば,不倫,浮気,不貞行為が思いつきます。
広辞苑によると,不倫とは「人倫にはずれること」,浮気とは「他の異性に心を移すこと」とあります。不貞行為は法律用語ですが,一般的には,貞操義務の不履行を言います。
結婚した男女は,互いに相手方の貞操を独占する権利を有し,その裏返しとして,夫婦は,配偶者以外の異性と肉体関係を持たず貞操を守る義務を負います。そして,他人と肉体関係を持ち,この貞操義務を履行しなかった場合が「不貞」であり,裁判上の離婚事由となりますし,また不法行為として損害賠償を負うことにもなります。
では,肉体関係にさえならなければいいのでしょうか。これについて,今年の三月に大阪地裁で注目する判決がありました。
判決文が手元にないので新聞報道を元にすると,夫が職場の同僚の女性と親密になりデートを重ねますが,夫が女性に肉体関係を迫るものの,女性はこれを頑なに断ります。
このケースでは,夫が女性と交際することにより妻に対する態度が冷たくなり,離婚に至ったようです。夫婦には,平穏に婚姻生活を営む権利があり,これを侵害することは不法行為となります。本件では,相手女性も夫に好意を持っていたようで,たとえ肉体関係はなくても,恋愛関係になることによって夫の気持ちを妻から離れさせ,婚姻関係を破たんさせたとして損害賠償を認めたようです。
世の中には,一回でも異性と食事を共にすると「浮気だ」と言う人もいますが,それは法律的に少し極端と思います。例えば,職場の同僚や昔からの友人とたまに飲食を共にするくらいは,恋愛関係を持たず純粋に友人としての関係である限り許されるでしょう。
夫婦は,できるだけ婚姻関係を維持するよう関係を修復する義務もあります。ちょっとした事情で即離婚,とすることもまた許されません。一般人から見てももはや見過ごせない,という事情が必要なのです。
DV・婚姻費用
2014年9月 ホワイトペッパー掲載
DV事案では被害配偶者もそうですが,子供達が深刻な心の傷を負っている例も目にしてきました。DVは中々人に相談できずに埋もれがちな反面,放っておくと深刻化します。早め早めに勇気を出して相談していただきたいと思い,前回に引き続き今回もDVについて書きたいと思います。
夫婦間での暴力ももちろん犯罪ですが,夫婦であることから加害配偶者に加害者意識が薄い反面,被害配偶者は経済的,精神的な理由によって加害配偶者に依存し,暴力を受け続けるという傾向にあります。長期にわたって暴力が続き,暴力が当たり前になると,こうした傾向がますます強くなり,一層事態が深刻化していきます。
DVを受けている時は,まず早めに周りの方に相談することだと思います。DVは家庭内の事で人には相談できず,我慢し,暴力が常態化していった例も多く見てきました。まずは勇気を持つことが重要だと思います。
次に,身の安全を図るためと,加害配偶者から距離を置き,落ち着いて正常な判断をするため,一旦家を出て一時避難することが必要な場合も多いです。もっとも,加害配偶者が避難先まで押しかけて来ることもありますので,そうした場合のためにDVシェルターがあります。シェルターでは外部からの連絡が遮断され,加害配偶者に知られることはありません。暴力から離れた環境でまずは心を落ち着かせ,今後の事を考えていくのが必要と思います。
さて,いざ離婚を決意しても,特に女性の場合は経済的な不安がよぎるでしょう。
まず,離婚に至るまでは,一定の婚姻費用を相手方に請求できます。この婚姻費用は,子供がいない場合にも認められます。また,離婚した後は養育費を請求できますし,各種の手当の支給を受けることもできます。離婚に際して財産分与や暴力行為等に対する慰謝料も請求できますので,それらを元に新たな生活基盤を得た方も多くいらっしゃいます。
証拠の保全①
2012年8月 ホワイトペッパー掲載
さて,いきなりですが,あなたが追突事故のようなもらい事故にあった場合,自分で証拠を取っておかなければ,と思いますか?加害者任せにはしませんか?
これまでの経験から言いますと,多くの方は,自分に責任があると思うときほど一生懸命証拠を集めようとする一方,自分に一切責任がないと思うときほど,証拠は加害者が集めればいいと思ってしまい,自分で証拠を集めておこうとはしません。しかし,これは誤解で,自分に責任がないと思うときほど証拠を残しておくべきなのです。
相手方に損害賠償を請求しても,相手方がすんなり払ってくるとは限りません。そうなると裁判となりますが,裁判となったら,請求する側で,事故の発生,損害額,事故と損害との因果関係等,請求を基礎づける事実関係を証明しなければなりません。証明できないと,負けることになります。
つまり,相手方に損害を請求する被害者の側で,証拠を集めて提出しなければならないのです。逆に,責任が100%自分にあると感じていて,相手方のいう額をそのまま支払おうという時は,相手方の立証してきた額をそのまま支払えばいいので,特に証明することはなくなるのです。
いざ請求,となった時に,例えば壊れた車両の写真がない,などということがあります。そうすると,衝突した箇所,破損状況がわからず,どういう事故なのか,本当に損害が発生しているのか立証できないということになりかねません。ぜひ,トラブルに巻き込まれたときほど証拠を集めておく,ということを頭の片隅に置いておいてください。
証拠の保全②
2012年8月 ホワイトペッパー掲載
今回は,こちらに責任がないと思うときほどトラブルに備えましょう,というお話です。
例えば,追突事故のようなときに,加害者の側は,自分に責任があると思うのか,一生懸命証拠を集めようとする一方で,被害者の側は,「被害者の自分が何で?」と思ってしまい,証拠を確保していない,ということが見受けられます。
しかし,これは大きな落とし穴になりかねません。
相手方に損害賠償を請求しても,相手方がすんなり払ってくるとは限りません。そうなると裁判となりますが,裁判となったら,請求する側で,事故の発生,損害額,その事故と損害との因果関係等を証明しなければなりません。証明できないと,負けることになります。
つまり,相手方に損害を請求する被害者の側で,証拠を集めて提出しなければ裁判では負けるのです。
先の追突事故の例で言いますと,壊れた車両の写真も被害者側では残してなく,車両の破損状況が分からないということも見受けられます。そうすると,いざ裁判となった時に,どういう風に衝突したのか,本当に事故で発生した損害か,証明できないということになり,結局裁判で負けるということになりかねません。
交通事故を例に出しましたが,このことは,どんなトラブルにも言えることです。なかなか実際にトラブルに巻き込まれてみないと実感がわかないと思いますが,是非自分が被害者のときほど慎重に証拠を残しておく,ということを頭の片隅にでも置いていただければと思います。
自転車での事故
2012年9月 ホワイトペッパー掲載
これからのさわやかな季節,自転車での遠移動もいいものです。しかし,最近,子供による自転車事故も増えているようです。もし,お子さんが自転車で歩行者にけがをさせてしまった場合,どうなるのでしょうか。
一般的に歩行者との関係で自転車の運転手には高度の注意義務が課せられていますので,多くのケースでは自転車側の過失が認められ,自転車の運転者には不法行為による損害賠償義務が発生することとなります。
では,その場合に自転車を運転していた子供が賠償義務を負うのでしょうか。
お子さんがおおむね一二歳以下の場合は,
その子供には責任能力がないとされ,子供は不法行為責任を負いません。ただし,この場合は,親権者が監督責任を問われることとなり,親権者が賠償する義務を負います(民法七一四条)
次に,子供がおおむね一三歳以上の場合,子供には責任能力が認められ,子供が賠償責任を負うこととなります。ただし,この場合も,親に監督義務違反が認められれば,親についても不法行為責任が成立し,親も賠償責任を負うこととなります。
自転車の事故といっても,ぶつかり方によっては重大な事故となりかねません。例えば,路上に転倒し,頭を打ち付けてしまった場合に,被害者に重篤な後遺症が残ることも決して珍しくありません。単に治療費にとどまらず,休業損害や入・通院に伴う慰謝料,また後遺傷害慰謝料,逸失利益等が発生することとなり,ケースによっては数千万円から一億円という莫大な賠償金ともなりかねません。
ついつい自転車でスピードを出してしまいがちですし,ちょっとくらいならと交通ルールを無視しがちですが,それが後でとんでもない責任となりかねません。日ごろからお子さんと交通安全についてしっかりと話し合い,また,万一の備えとして自転車保険に加入しておくことも,これからは必要と思います。
症状固定
2013年1月 ホワイトペッパー掲載
さて,前回に引き続き,今回は交通事故,中でも「症状固定」についてお話しします。
前回の記事にもありましたように,症状固定となると,それ以上積極的な治療を行う必要はないとみなされ,治療費の支払いが打ち切られます。もっとも,後遺症を負った方はその症状と生涯付き合わなければならず,その分苦痛を受けることになり,その苦痛に対する慰謝料が支払われると考えるのです。
そこで,まずは症状固定が重要となりますが,「症状固定」となったかどうかは,医師の診断によります。まれに,6か月を目途に保険会社から症状固定にするようにと促されることがありますが,この症状固定の判断は,あくまでも医師の医学的判断によって行うものです。治療を継続すれば改善が見込めるのであれば,医師は治療を行う義務があります。症状固定については,主治医とよく相談して対応するようにしてください。
症状固定となった後の後遺障害の程度については,あらかじめ症状に応じて一級から十四級まで定められており,それに応じて慰謝料額が決められています。したがって,何級の後遺障害と認定されるかが重要となりますが,この認定は,損害保険料率算出機構が,医学的見地から認定しています。
もう一つ,後遺障害等級によって逸失利益が算定されます。まず,後遺障害等級に応じて労働能力喪失率が決められていますが,これは,後遺症を負ったことによりその分仕事ができなくなった率とでも考えてください。例えば,十四級では五%とされていますが,これは,健康な状態を百%として,そのうちの五%分仕事が満足にできなくなったとし,収入の五%分について損害とするものです。
もっとも,実際には裁判での基準と保険会社の基準とが違ったり,計算方法でも中間利息の控除など,分かりづらいものがあります。専門家に聞きながらでなければなかなか理解しづらいところが多いのも現状と思います。
交通事故
2013年10月 ホワイトペッパー掲載
交通事故のニュースが後を絶ちません。先日,エンタの神様などで活躍していた桜塚やっくんが交通事故で亡くなりました。事故には本当に気を付けていただきたいと思いますが,事故後の紛争予防について少しお話したいと思います。
まず,交通事故にあった場合,車を止め,続いて負傷者がいる場合は,救護措置を講じ,重症の場合や負傷部位が頭部などの場合は,すぐに救急車を呼んでください。ただし,後続車には十分に注意してください。
次に,後日紛争になることもありますので,相手方の身元を免許証や車検証で確認しておきます。そして,警察に連絡をしてください。
その後,警察による実況見分が行われることが多いですが,できればその場で事故発生の状況,車の破損部位・程度・スリップ痕の状況,信号の状況などを写真にとっておくといいと思います。また,目撃者がいる場合には,その場で住所,氏名などを聞いておくこともできればしたいところです。これは,将来,相手方と事故原因や過失割合で争いとなることが多いため,それに備えて証拠を保全しておくものですが,加害者の場合のみならず,被害者の場合も出来るだけ証拠を保全しておいてください。というのも,後日裁判となった場合には,事故原因や損害額等については原則として損害賠償を請求する側,つまり被害者側で立証しなければならないので,いざ証明となった段階に証拠が思うようにないということも珍しくないからです。
また,仮に怪我をしている場合は,たとえ軽傷であっても放置せず,病院に行くことが大切です。後日になって痛みが発生し,病院を受診したとしても,事故から時間がたっていると,事故による怪我とは関係がないとして,因果関係を争われる危険があり,場合によっては事故による損害とは認められないことになりかねません。
あと,加入の保険会社への御連絡も忘れずに。
交通事故(加害者の場合)
2014年7月 ホワイトペッパー掲載
前回,田村弁護士が言っていたように,交通事故には本当に気を付けていただきたいですが,万が一交通事故を起こしてしまった場合についても事前に考えておきたいものです。
まず,交通事故にあった場合,車を止め,続いて負傷者がいる場合は,救護措置を講じ,重症の場合や負傷部位が頭部などの場合は,すぐに救急車を呼んでください。ただし,後続車には十分に注意してください。
決して,その場から逃げることはしないでください。近年は,交通事故を起こした場合,相手方のけがの程度によっては重い刑罰を受けることが多くなっています。それでも,初犯であれば,すぐに刑務所に行くということはあまりありません。しかし,ひき逃げの場合は,重い刑罰を受けることになります。事故後の対応は刑事裁判で情状の一つになりますし,また,けがの程度によって受ける刑罰も異なりますので,できるだけ早く病院に運んで,手当を受けていただくべきです。
事故後は,現場検証や,警察での事情聴取などがあります。取調べ後に,調書を作成しますが,この調書は,警察官に読んで聞かされた後,署名,押印を求められます。署名押印すると,この調書に書かれていることは,自分が話したことになり,裁判で証拠として扱われます。調書の内容を後から否定することは難しくなりますので,署名,押印する前に,間違いがないか,自分の言っていないことが書かれていないかよく確認してください。
事故後の示談交渉などは,任意保険に加入していれば保険会社に任せるのが多いでしょうが,病院にお見舞いに行くなど,当たり前の誠意は尽くすべきでしょう。そうした事情は,刑事裁判でも有利な情状として扱われることがあります。もっとも,保険会社によっては,当事者同士の直接の接触はしないようにと指示し,そのためお見舞いにも行かなかったという場合も見られます。その場合は,よく保険会社とも相談してください。
交通事故(他人の車両の使用)
2014年8月 ホワイトペッパー掲載
会社の業務で,会社の車を運転している時に交通事故を起こしてしまった,というケースもよくある話でしょう。
その場合,会社は,使用者責任(民法七一五条)を負い,また自賠責法上の「運行供用者」にもあたり,運転者(従業員)とともに損害賠償責任を負います。特に,自賠責法上の運行供用者責任は,無過失責任に近いものがあり,運行供用者は,原則として運転者と連帯して損害賠償責任を負うと考えておいた方がいいでしょう。
実際のケースでは,従業員とともに会社に対しても請求し,会社がまず被害者に対して賠償するということも多いと思います。
そして,その後,会社が運転者に会社の支払った賠償額を請求(求償)する場合もあります。私がこれまで経験したケースでは,会社が損害額の全額を従業員に請求し,毎月の給料から天引きしていることもありました。しかし,これは,法律上問題があります。
まず,会社が賠償額の全額を従業員に求償するのは,一般的に許されません。
裁判例では,事業の性格や労働条件,勤務態度,会社の安全教育の程度等の諸事情を考慮して,「信義則上相当と認められる範囲」でのみ会社から従業員への求償を認めています。求償の範囲については,裁判例によってばらつきが見られ,全く認めていないものもあれば,五%とするものや,二五%とするものなど,事情に応じてまちまちでした。
次に,この会社が支払った賠償金を給与から天引きする点も問題です。
給与については,法律に定める例外を除いて,天引きや相殺を原則として禁止され,その全額を支払わなければなりません(労働基準法二四条)。したがって,先ほどの会社が給与から天引きするのは,この規定に抵触することとなり,原則として許されません。
遺言
2012年11月 ホワイトペッパー掲載
ご自分の財産を,死後子孫に残してあげたいと思うのが人情です。しかし,その財産を巡って争いになることもしばしばです。そうした争いを防止するため,遺言書を残しておくことは有効ですが,今回は,その遺言についてのお話です。
遺言書は,大きく自筆証書遺言と公正証書遺言とに分かれます。
自筆証書遺言とは,文字通り自分で書いた遺言のことで,遺言者が遺言書の内容の全文,日付,氏名を自筆で書き,これに押印することによって作成する遺言書です。自筆証書遺言は,公正証書遺言と異なり,公証人に依頼する手数料がかからず,また証人の立会いも必要なく,手軽に作成できるという点で便利です。しかし,その反面,自分で作成することから,法律に定める遺言の方式を間違えると無効になってしまう危険があります。たとえば,手が不自由で書けないからと他人が代筆した場合,無効となってしまいます。また,公の役所で保管するわけではないので,遺言書を偽造,変造される危険もあります。
一方,公正証書遺言とは,公証人役場で作成する遺言です。公正証書遺言を作成するためには,証人2人が必要で,また公証人に作成手数料を支払う必要がありますが,法律の専門家の公証人が作成するため,遺言方式を間違える心配もなく,また遺言書が公証人役場に保管されることから,偽造,変造のおそれもありません。
では,被相続人がお亡くなりになり,その方の遺言書を発見した場合,どうすればいいのでしょうか?
相続人を集め,弁護士がやってきて,皆の前で封を開ける,というのはテレビでの話で,実際には,裁判所に検認の手続きを申し立て,裁判所で開封しなければなりません。検認の手続きを怠った場合,5万円以下の過料に処せられることになっていますので,ご注意ください。
遺産分割
2012年12月 ホワイトペッパー掲載
今回は,遺産分割についてご説明します。
相続人が一人しかいない場合を除いて,遺産は,被相続人の死亡(相続開始)と同時にそれぞれの相続分に応じて相続人に相続され,相続人による共有状態となります。
この共有状態となった遺産を各相続人に具体的に配分していく手続が遺産分割手続です。
遺産分割は,まずは遺産分割協議によることになりますが,共同相続人は,遺産の分割を禁じる遺言がない限り,いつでも遺産分割協議をすることができます。
では,具体的にどのように分割していくのでしょうか。
分割の方法としては,現物分割,代償分割,換価分割という方法があり,それぞれの相続人の実情に合わせて分割方法を選ぶことができます。例えば,どうしても各相続人が土地を欲しいという場合,分筆をして分けてしまうこともできます(現物分割)し,他方でその土地を誰も欲しがらない場合,売ってしまってその代金を分けることもできます(換価分割)。また,その土地はいらないけれども相続分に応じた財産は欲しいというときは,土地を欲しがっている相続人に土地を相続させる代わりに,その差額を現金で土地を相続した相続人から払ってもらう(代償分割)といった方法も取ることができます。
相続で借金がある場合に,相続人の一人が借金全額を負うことにしたいとうい相談を受けることがありますが,このような合意をしても,債権者には対抗できないとされています。したがって,債権者の了承がない限り,各相続人は,債権者に対しては,相続分に従った金額で連帯して支払う義務を負います。
遺産分割について相続人間で話し合ってもまとまらない場合,家庭裁判所の調停手続で話し合うことができます。この遺産分割調停でも合意できなかった場合は,審判手続きに移り,家庭裁判所が遺産分割方法を決定することになります。
兄弟との相続
2014年6月 ホワイトペッパー掲載
皆さんは,ご自分がなくなった時,誰が自分の財産を相続するか把握していますか?
結婚して子供がいる場合,配偶者と子供が相続します。しかし,子供がいない場合,配偶者がすべてを相続するわけではありません。
配偶者との間に子供がいない場合,その次に配偶者と被相続人の両親が相続します。仮に,両親も亡くなっている場合は,配偶者と被相続人の兄弟が相続人となります。仮に兄弟の誰かが亡くなっていても,その子供,つまり甥,姪も相続人となります。
さて,例えば被相続人の父親が離婚し,再婚だった場合,母親が異なる兄弟がいることもあるでしょう。その場合,異母兄弟にも一定の相続権があります。
こうした相続人に相続権があるということはどういうことでしょうか。例えば被相続人名義の不動産について名義を移したいとしても,相続人全員との間で遺産分割協議をする必要があります。預貯金も,金融機関の多くは,相続人全員の同意書を揃えないと引出等に応じていません。つまり,こうした相続人全員の判をもらわないと,不動産の名義を移したり預貯金を引出すことができないのです。
以前相談を受けた例で,預貯金をすべて被相続人名義にしていましたが,昔の方で兄弟が多く,そのうちの何人かも亡くなっており,甥,姪も含めると相当な数の相続人になっていました。預貯金をいざ下ろそうと思ってもすぐにはできず,葬儀費用にも困ったということがありました。
こうした事態を避ける方法としては,事前に遺言書を作成し,財産の全部を妻に譲る,等と遺言しておく方法があります。備えあれば憂いなし,遺言は何度でも書き直すことができます。行政書士や司法書士,弁護士といった法専門家に一度ご相談いただければと思います。
相続放棄
2014年12月 ホワイトペッパー掲載
相続した時に,実は亡くなった方に借金があったということもあります。借金の方が多ければ,相続放棄をするのが一つの手段ですが,相続放棄についての誤解も多いようです。
まず,例えば家については相続するが,借金については放棄する,ということはできません。相続するか相続放棄するかは,すべての財産についてであり,相続するのであればプラスの財産も借金もすべて相続しますし,相続放棄するのであれば,借金も放棄する一方でプラスの財産も放棄することになります。
そこで,相続するか放棄するかを判断するために被相続人の財産を調査する必要がありますが,迅速に調査する必要があります。というのも,法律で定めた期間内に相続放棄をしない限り,相続したこととなるからです。
民法では,この期間について,自己のために相続の開始があったことを知った時から「3か月以内」としています。もっとも,この期間は,この三か月が過ぎるまでに家庭裁判所で手続きを取れば延ばすこともできます。
では,この相続放棄の期間には借金の存在が分からずに何も手続きをしていなかったところ,三か月が経過して初めて多額の借金の存在が判明した時はどうでしょうか。最高裁の判決で,「被相続人に相続財産が全く存在しないと信じ,かつそのように信じたことに相当な理由があるとき」は,たとえ被相続人の死亡を知った時(相続の開始を知った時)から三か月を経過していても,相続財産の存在を知った時から三か月以内に手続きを行えば相続放棄できるとしたものがあります。この最高裁の判決からすると,借金の存在を知った時から三か月以内であれば相続放棄の手続きがとれる可能性があります。
最後に,相続放棄の手続きは,先に述べた期間内に家庭裁判所で行う必要があります。繰り返しになりますが,家庭裁判所で決められた手続きを取らなければ,相続したとしてプラスの財産もマイナスの財産も相続することになりますので,ご注意ください。
敷金返還
2013年5月 ホワイトペッパー掲載
新年度を迎え,新生活を始めた方も多いと思います。新しい生活を始めるにあたり,今まで借りていた家から引っ越すことも多いと思いますが,原状回復を巡ってトラブルとなったとの相談もしばしば寄せられます。
そもそも借主は,借りたものをきちんと管理して使用する義務を負っており(これを法律的に言うと,「善良なる管理者の注意義務」と言います。),賃貸借契約を終了するときは,原状回復して返還する義務を負います。
したがって,借家人が故意,過失によって建物をき損,滅失した場合は,借家人はこれを補修して原状に回復する義務を負います。
一方,借家人が故意,過失なく使用していたにもかかわらず自然と汚れ,損耗したもの(例えば,畳,襖,壁紙の変色)については,借家人の責任によるものとは言えないので,借家人は補修して原状回復する義務までは負いません。こうした自然損耗は,建物を貸す以上当然つきもので,貸主はその分毎月の賃料を得ているので,自然損耗については貸主の負担と考えるのです。
最近では,賃貸借契約において,自然損耗部分を新しく取り替える費用も借家人の負担とするとの特約を置いている例も見られます。
しかし,こうした特約があるからといって直ちに借家人の負担となるわけではありません。判例では,借家人がその特約の趣旨を十分に理解し,自由な意思によって同意した場合に限るなど,厳格に解釈する傾向にありますので,事案をよく検討する必要があります。
最後に,借家人が原状回復を行わない限り,明渡し未了として,賃料を請求できないかと貸主の方から相談を受けることもありますが,通常は賃料請求はできないと考えられています。もっとも,原状回復に合理的に必要な期間,他の人に貸すことができなかった場合は,その期間分の賃料相当額について,借家人に損害賠償請求できる場合もあり得るでしょう。
賃料変更
2013年6月 ホワイトペッパー掲載
最近,アベノミクス効果によって地価も上昇し,景気も上向いていますが,この状態が継続すると,場合によっては物価の上昇ということにもなりそうです。
長期間家を借りている場合,契約時の賃料が不相当となることも珍しくありません。
そこで,例えば,大家さんから家賃の値上げを請求された場合,どうなるのでしょうか。
借地借家法では,①「土地に対する租税その他の公課の増減により」②「土地の価格の上昇若しくは低下その他経済事情の変動により」,又は③「近傍類似の土地の地代等に比較して」不相当となった時に,貸主,借主いずれかが一方的に増,減額の意思表示をすれば,その時点で客観的に正当と判断される額に増,減額されたものとみなされます。ただし,一定の期間増額をしない旨の特約があった場合は,その間は増額できません。
このように,増減額は意思表示をしたときに増減額されることになるので,意思表示の有無を明確にするために,内容証明郵便で請求した方が良いでしょう。
もっとも,客観的に正当と判断される金額は,最終的には裁判所で決められることになります。そのため,大家さんから増額請求された場合,その請求をされて以降裁判所で最終的に正当な金額が決定するまでの間は,借主は自分が正当と考える額を支払えばよいとされています。その金額を支払っていれば,大家さんから賃料の一部しか支払っていないとして契約を解除されることはありません。仮に,大家さんが賃料の受け取りを拒否したなら,法務局に供託をすることになります。
賃料額についての話し合いがまとまらないときは,まず裁判所に調停を申し立て,それでもまとまらない場合に訴訟となります。そして,調停や判決で正当額が確定した時は,請求時から支払っていた額との差額に年1割の割合による利息をつけて精算することとなります。
建築瑕疵
2014年10月 ホワイトペッパー掲載
家を買うことは,ほとんどの方には一生に一度の大きな買物でしょう。その家にもしも欠陥があったら・・・
民法上,注文によって家を建てることは請負契約と考えられ,建売住宅や中古住宅を購入することは,売買契約と考えられます。
ここで,民法上のどちらの契約となるかによって,どのような請求ができるかが微妙に違ってきます。民法では瑕疵担保責任という制度があり,瑕疵(欠陥のこと)が発見された場合の責任について規定されています。具体的には,大きく,①瑕疵修補請求権(欠陥を直してもらうこと),②損害賠償請求権,③契約解除権に分かれますが,そのすべてが認められるわけではありません。先ほど述べた,売買契約と請負契約のどちらの契約にあたるかによって異なってきます。また,当然請求できる期間も決められているのですが,それもどちらの契約にあたるかによって異なってきます。その違いについて詳しく説明したいところですが,紙幅の関係から割愛します。
なお,新築建物については,住宅の品質確保の推進等に関する法律で,住宅の構造耐力上主要な部分や雨水の侵入を防止する部分の瑕疵について引渡しの時から十年間は瑕疵の修補や損害賠償を請求できるとされています。
また,仮に瑕疵が発見され,建築会社や不動産業者に請求しようとしても,会社が倒産している場合もあります。こうしたことから,新築住宅を供給する事業者に対し,瑕疵担保責任が確実に履行されるように保険加入や供託を義務付ける制度が設けられ,これら保険金や供託金から一定の支払いを受けることができる場合もあります。
このように,欠陥住宅問題は,様々な救済手段が用意されている一方,複雑で分かりづらいところもあります。請求には,技術的,専門的な判断が不可欠となりますので,建物の欠陥を発見したら,まずは専門家に相談した方がよいかと思います。
逮捕・拘留
2013年4月 ホワイトペッパー掲載
先日,パソコンが遠隔操作され,偽の犯罪予告を書き込まれて誤認逮捕された事件があったのは記憶に新しいと思います。現代は,いつ,どこで犯人にされるかわかりません。
逮捕は,被疑者に逃亡の恐れがあり,また証拠隠滅の恐れがある時に,現行犯の場合などを除いて,裁判官の発付する逮捕状によって行われます。
逮捕されると,警察による取調べが行われます。取調べでは,事情を聴いたうえで,供述調書を作成していくのが通常です。この調書,一度署名・押印すると,調書に書かれている内容を供述者が話したものとして裁判での証拠とされます。仮に犯罪事実を認めた場合,たとえ後で撤回しても供述調書の内容が裁判では真実として認められやすいのが現実です。これまで起きた冤罪事件の多くは,取り調べ段階で自白調書が作成され,裁判の段階で無実を訴えても,先に作られた調書の内容が真実とされて有罪となったものです。
さて,逮捕から四八時間以内に警察から検察庁に事件が送られます。検察官は,それから二四時間以内に取調べをしたうえで,さらに身体拘束の必要がある場合は裁判所に勾留請求をします。
勾留請求がされると,まず裁判官による勾留質問を受け,そのうえで裁判官が勾留するかを決定します。最初に最大十日間勾留することができ,さらに身体拘束の必要がある場合は,最大でもう十日間勾留延長が可能です。
このように,逮捕されると,最大二三日間身体が拘束されることになります。
逮捕されると,当番弁護の制度があり,依頼すると一回弁護士が無料で接見しに来ます。また,国選弁護の制度の他にも一定の資力以下の方については弁護士会が費用を負担して弁護人を付ける制度もあります。
このように,今では早い段階で弁護士に相談できる制度がありますので,万が一の時にはご活用ください。
プロバイダー規制法
2013年11月 ホワイトペッパー掲載
インターネットでは気軽につぶやける分,自分のプライバシーが侵害されたり,悪い噂を流されやすいのも現状です。
ちなみに,名誉棄損とは,客観的に人に対する社会的評価を低下させる行為を言いますが,インターネット上で名誉棄損に当たる書き込みがされている場合,まず掲示板の管理者に対して記載の削除を申請してください。また,サイトの管理者に加えて,プロバイダーに対しても削除を求めることもできます。サイトの管理者やプロバイダーが名誉棄損の書き込みを知った場合,一定の要件のもと削除するべき義務が生じますので,その書き込みを放置すると場合によっては違法となります。プロバイダー等が書き込みを放置する場合は,裁判所に掲載禁止の仮処分をした上で掲載の差し止め請求,損害賠償請求等の訴訟を起こしていくこととなります。
次に,個別の書き込み削除に加え,書き込みをした本人に対して直接損害賠償等を請求していくことが考えられます。
もっとも,インターネット上で書き込み者が自分の身元を明かしていることはないので,まず掲示板にサービスを提供しているプロバイダー等に対して書き込み者(発信者)の個人情報の開示を求めていくこととなります。
ここで,プロバイダー責任制限法では,権利侵害が明白であるか,損害賠償請求権の行使など正当な理由がある場合には,プロバイダー等に対して発信者の身元などの情報を開示するよう請求できるとされています。
ただし,プロバイダー等がこれに応じない場合でも,プロバイダーに故意または重大な過失がなければ損害賠償等の責任を負わないとなっています。そのため,プロバイダー等が任意の開示に応じない場合もあり得ます。そのようなときは,訴訟によって開示を請求することとなります。
ペット問題
2013年12月 ホワイトペッパー掲載
先日,某芸能人夫妻のペットが近所の住民にかみつき,その住民が退去し賃料収入が減ったとして,損害賠償を命じられました。
集合住宅での近隣トラブルについて,騒音トラブルを例に法的責任について解説します。
まず,人が生活する以上当然生活に伴う音は発生するので,こうした一定限度の生活騒音については違法となりません。社会通念上受忍限度の範囲を超えた騒音の場合に法的責任が問題となります。
もっとも,具体的にどのような騒音が受忍限度を超えるのかについて明確な基準があるわけではありません。音の大きさや騒音の内容,頻度,回数,発生時刻等の様々な事情を考慮して判断されます。例えば,怒鳴り声や叫び声の場合はそれだけで不快ですし,また夜中に頻繁になされる場合も受忍限度を超えやすいでしょう。
では,アパートの住人がこうした騒音を出しているとき,どうすればよいでしょうか。
まず,この騒音によって損害が発生している場合,騒音を出している本人に対して損害賠償請求することが考えられます。
次に,大家さんに対して対処を求めることが考えられます。
まず,大家は,その被害を受けている借主との間でも賃貸借契約を締結していますが,契約上の義務として,借主に建物を適切に使用収益させる義務があります。そして,そのような賃貸借契約上の付随義務として,大家は騒音を出している賃借人に対して必要な措置を講じる義務があると解されます。具体的には,必要な注意を行い,それでも改善されず,また騒音の態様が悪質な場合,契約を解除して退去を求めることができます。大家がこうした措置をせず放置した結果他の賃借人に損害が生じたならば,場合によっては大家に対して損害賠償請求できると考えます。
そもそも賃借人は,当然に社会通念上適切な用法に従った使用をするべき義務を負い,受忍限度を超える騒音を出すことは当然に契約違反となります。共同生活を送る以上,互いを思いやった生活をしなければならないとするのが法律なのです。
薬物依存
2014年5月 ホワイトペッパー掲載
歌手のASKAがついに逮捕されました。
「太陽と埃の中で」や「YAH YAH YAH」等,私の好きな曲のあったアーティストなので,大変残念です。
私は弁護士になって7年になりますが,これまで多くの薬物事件を経験してきました。薬物使用が後を絶たないのが現状です。
覚せい剤は,一回でも使用すると体が快感を覚えてしまい,また使っているうちに体が慣れ,使う量も増えてしまいます。そうして,もはや薬物が手放せなくなり,薬物から逃げられなくなった人を何人も見てきました。
覚せい剤などでは,個人差もあるようですが,口が渇き,しきりに唇を舐める,視線が定まらない,瞳孔が開いて目がギラギラしている,しきりに汗をかく,といった症状がみられ,家族が気付くケースも多いようです。
いざ身内に覚せい剤の使用者がいたとしてもどうしていいかわからないでしょう。しかし,そのまま放置するのは,私の経験からして,より深刻なケースを招くと思います。
以前私が経験したケースでは,家族が自分たちの手で本人を立ち直らせようとした結果,かえって薬物依存を深刻にさせたものがありました。本人は長いこと薬物を使用し,薬物のために借金もしていました。家族は,何とか薬物から立ち直らせようと借金を整理したり,仕事を探したりしていましたが,当の本人はさらに借金を重ね,また仕事の給料はすべて薬物に使用することとなりました。
こうしたケースでは,本人は,「また借金ができる」「また薬が買える」という精神状態で,これはもはや薬物依存症という病気によるものなのだそうです。
薬物に手をだし,薬物依存となったら,もはやきちんと罪を償うのは当然のこと,同時に専門家による治療が必要と覚悟しなければならないと思います。
全国には,薬物依存を扱っている病院,家族のための家族会,DARCといった自助グループもあります。
法律相談
2012年12月 ホワイトペッパー掲載
皆さんが法律問題を弁護士に依頼して解決しようとしても,弁護士費用が気になることが多いのではないでしょうか。
弁護士費用は,その事務所によって定め方も異なり,必ずしも一定ではありませんが,以前弁護士会で定めていた報酬基準を今でも採用している事務所が多いと思います。そこで,弁護士会基準により,一般的な弁護士費用の相場についてみます。
まず,法律相談料では,30分5250円としているところが多いようです。もっとも,最近では,借金問題については無料とするところや,初回相談はすべて無料,あるいは無料相談日を設けるところも見られます。
次に,実際に弁護士に法律事務を依頼する場合,着手金と報酬金が必要となります。
着手金とは,事件のご依頼時にお支払いいただく費用で,これは,たとえ不成功に終わった場合でも返金しません。一方,報酬金とは,事件の処理が終了した段階で,その成功の程度に応じてお支払いいただく費用です。
一般的に着手金と報酬金は,経済的利益の何%という形で計算します。例えば,300万円の金銭返還請求訴訟を行い,200万円が返ってきた場合,着手金算定の経済的利益は300万円,成功報酬算定の経済的利益は200万円となります。そして,経済的利益が300万円以下の訴訟事件の場合,着手金は経済的利益の8%,報酬金は16%としているのが一般的です。したがって,事件依頼時に着手金として24万円+消費税,200万円が返ってきた時点で報酬金として32万円+消費税をいただくことになります。
もっとも,何を経済的利益とするかは事案の性質によって異なり,一様ではありません。
この他,法テラスを利用することにより,一般的な弁護士費用よりも安く,しかも月々の分割払いで依頼することもできます。
いずれにしても,ご依頼時によく弁護士と相談し,ご確認いただければと思います。
法廷見学
2013年3月 ホワイトペッパー掲載
私は,小さいころ赤かぶ検事奮戦記のドラマが好きで,法廷になんとなく憧れを持っていました。今は橋爪功ですが,当時はフランキー堺が主演でした。最近は刑事裁判などで開廷前の様子が流れたり,またドラマなどで法廷の様子を目にすることも多く,また裁判傍聴を趣味にしている方も多いと聞きますが,実際に法廷に行ったことのある方はまだまだ少ないのではないでしょうか。
今回は,法廷見学についてのお話です。
裁判は公開が原則ですので,基本的に誰でも傍聴できます。
法廷に行くと,まず入り口にその日の審理予定が張り出されていますので,何時からどのような審理があるのかを確認できます。
どの裁判を傍聴するか迷うかもしれませんが,一般的に民事裁判は書面のやり取りで終わり,また証人尋問も訴訟の中身がわからないと聞いていても理解できないことが多いと思います。したがって,初めて傍聴するのであれば,刑事裁判の方が見ていて理解しやすいと思います。
もっとも,紋別の裁判所は月に3日しか開廷しておらず,また事件数自体もそれほど多くはありません。傍聴するのであれば,旭川や札幌の大きな裁判所の方がいいでしょう。
さて,調べてみると,実は裁判所では各種見学の機会を設けているようです。旭川地裁でも団体での見学コースを設けていて,裁判傍聴や庁舎見学,模擬裁判までできるようです。そして,紋別の裁判所でも同じように裁判所見学ができるようです(詳しくは,http://www.courts.go.jp/asahikawa/kengaku/index.html)。
今では,一般の方が裁判に関わる場面も多くなっています。せっかく裁判所が見学の機会を設けていますので,裁判所とはどんなところか一度実際に見て触れて感じてみてはいかがでしょうか。
一票の格差
2014年1月 ホワイトペッパー掲載
一票の格差の問題は,最近皆さんもニュースなどで目にしていると思います。皆さんの選挙権に関わる問題ですが,分かりづらいという方も多いのではないでしょうか。
例えば,有権者数二百人のA選挙区と有権者数百人のB選挙区があったとして,それぞれ選出される議員数が一人だったとします。A選挙区では,百一人の票を集めなければ当選しないのに対して,B選挙区では五一人の票を集めれば当選することとなります。
A選挙区の一票は百一分の一であるのに対しB選挙区の一票は五十一分の一となり,B選挙区の方が,ある一票がどちらの候補者に入るかで選挙結果が左右されやすくなり,その分一票に重みがあることとなります。
これが一票の重み,投票価値の問題で,こうした投票価値の平等も憲法の平等原則(一四条)で保障されると考えられています。
では,どれくらいの格差で違憲となるかというと,格差が二倍になると一人に二票与えるのと同じなので違憲,とすれば分かりやすいのですが,最高裁は必ずしもそうはしていません。最高裁が具体的に何倍の格差で違憲と考えているのか,はっきりしないのです。
では,違憲となれば選挙は無効かというとそうでもありません。「違憲だが選挙は有効」という判決がしばしば出されます。
これを事情判決と言いますが,なぜこのような判決がされるかというと,一票の格差を直すには選挙区割りや定数配分,選挙制度を見直す必要があり,これには法律改正が必要です。投票価値の不平等は,特定の選挙区の問題ではなく全体の問題なので,選挙が無効となると全体の選挙が無効になると考えられます。その結果,その選挙で選ばれた議員は最初から議員ではなかったことになり,当選後に行った法律改正等も無効になります。そして,選挙をやり直すこととなりますが,やり直し選挙も不平等状態のままなので,また選挙無効→やり直しとなり,これを繰返すこととなります。こうして収拾がつかなくなり,国の機能が麻痺することも考えられます。
こうした事態を避けるため,最高裁は,選挙は違憲だけれども有効として,国会に早く法律を直しなさいとしているのです。
憲法
2014年11月 ホワイトペッパー掲載
今回は憲法について考えてみたいと思います。と言うと,憲法は難しいし,大して興味もないという声が聞こえそうです。まあ,そう言わずに,気軽に読み流してください。
さて,日本国憲法の一条から百三条までの条文のうち,皆さんは一番大切な条文としてどの条文を挙げますか?九条でしょうか?
実は,日本国憲法は,この理念を守るためにあると言われています。一三条には,「すべて国民は,個人として尊重される」とあります。この「個人の尊厳」のために憲法のすべての条文はあるといわれます。
まず,すべての個人を尊重する,そのためには,ある人が差別されてはならないし,等しく権利が保証されなければならない。そこで憲法は人権を保障しました。もっとも,いくら人権を保障しても,それを守るべき国家が暴走し,まして戦争となれば人権保障は絵に描いた餅になります。そのために,権力を分散させ,戦争を放棄し,裁判所に人権を守るために違憲立法審査権を与えたのです。
さて,すべての個人に人権が保障されているからといって,何でもしていいわけではありません。例えば,インターネットで悪口を書込む場合を想像してください。そうした書き込みも,表現の自由(二一条)と言えなくもありません。しかし,だからと言って,そうした書込みを規制できないとすると,書込まれた人の権利はいいのか,となります。
そこで,憲法は,人権は「公共の福祉に反しない限り」で保証されるとしました。ここで,公共の福祉とは,人権同士が衝突するときに互いに調整し,制約する原理とされます。
先程の事例についてみると,そうした書込みは刑法上の名誉棄損罪になるし,また民法上の損害賠償責任も負います。そうした悪口は他人の名誉権を侵害するので,罰を課すとして書き込みを制約しているのです。
憲法は,すべての人を平等に尊重し,そして権利の行使も他人に迷惑をかけるようなものではいけないという当たり前のことを定めているのです。みなさんも,憲法を身近に感じていただければと思います。
異議
2015年2月 ホワイトペッパー掲載
「異議あり!」。ドラマや映画などで弁護士がこう叫ぶのは,おなじみの場面です。しかし,実際の法廷で「異議!」と叫ぶのは,そんなにあることではありません。
まず,民事裁判で異議が出される典型的な場面は,証人尋問において相手方が違法な尋問をしたときでしょう。
まず,証人尋問とは,証人に実際に法廷に来てもらい,当事者双方と裁判官から質問し,証人の知っている事実を証言する手続きです。一般的に,まず尋問を請求した側が主尋問をし,次に相手方が反対尋問をし,最後に裁判官が補充尋問をする順で進行します。
この証人尋問では,例えば証人を侮辱するような質問や,争点に関係のない質問,意見にわたる質問,証人が直接経験しない事実の質問,誤導尋問,主尋問での誘導尋問などが法令で禁止されています。
ここで,法廷でいうところの誘導尋問は,世間一般のイメージとは違い,「はい」か「いいえ」で答えられる質問とされます。例えば,「あなたは,昨日の十九時ころ,○○にいましたね?」というのが誘導尋問です。本来は,「あなたは,昨日の十九時ころ,どこにいましたか?」と質問するべきです。
誤導尋問とは,証人が証言していないことを,証言したという前提で質問することです。例えば,証人が「原告が被告を殴ったのを見た」と証言したのに対し,「あなたは,原告が被告の顔面を殴ったのを見たということですが」などと質問することです(先の証言で,証人は,「顔面を」とは言っていません。)。この誤導尋問がされた場合,これを放置すると証人が混乱したまま証言することになり,誤った証言をしてしまう危険もあります。したがって,証言する前に直ちに異議を述べて質問を遮らなければなりません。
で,実際に異議を出すときも,テレビみたいに「異議あり!」とするわけでもありません。人によってさまざまですが,とにかく手を挙げて「それ誤導でしょう」等と言って止めるくらいの人も多いように思います。
スキーでの事故
2015年3月 ホワイトペッパー掲載
スキーシーズン真っ盛りです。 しかし,スキーでの事故も最近では目にすることが多くなり,時には重大な後遺症の残るけがを負ったり,死亡事故に至ることもしばしばです。
格闘技や,アメリカンフットボールなどのように,人と人とがぶつかり合うことが予定されているスポーツの場合は,そのスポーツでけがをしても,けがを負わせた人の行為がそのスポーツのルールに照らして社会的に許される程度の行動である限り,正当な行為として損害賠償の対象にはなりません。
しかし,スキーについてみると,スキーは人と人とがぶつかり合うことが予定されているスポーツではないので,スキーをしていて故意または過失によって人にけがを負わせた場合は,原則として不法行為による損害賠償責任を負うことになります。
では,スキー場で転んでいる人と衝突した場合はどうでしょうか。
滑っている方からすると,ゲレンデで転んでいて避けきれなかった,転んですぐに起き上がらない方が悪い,といった主張がありそうです。
しかし,スキー場で滑る場合は,当然スキーでは転ぶことも十分あり得,そうした転んでいる人がいることを常に予見し,仮に転んでいる人がいた場合にはこれを回避する義務があります。転んでいる人を避けられずに衝突した以上,ぶつかったスキーヤーに過失があるとされることが多いでしょう。
もっとも,転んでいる人が,例えば初心者でありながら上級者用ゲレンデに行き,起き上がれずにいた場合などは,転んで起き上がれなかった側にも過失があると言え,ある程度過失相殺されることもあります。
一度けがを負わせると,けがの症状によっては数千万円の損害賠償となることもあります。十分に注意して,また自分の実力にあった滑り方をしてほしいものです。
相続税の基礎控除
2015年4月 ホワイトペッパー掲載
今年(平成二七年)の一月一日から相続税の基礎控除額が引き下げられ,相続税を納める人が増えたのはご存知でしょうか。
例として,父親と母親に子供一人がいて,父親名義の遺産総額が六千万円の場合で見てみましょう。この例で父親が亡くなったとします。以前の基礎控除額は,「5千万円+一千万円×法定相続人の数」とされ,この例では七千万円が基礎控除となります。そうすると,遺産総額が基礎控除額を下回っているので,この例では相続税がかかりません。
しかし,平成二七年一月一日からは,基礎控除額がそれまでの六割に引き下げられました。具体的には「三千万円+六百万円×法定相続人の数」とされました。先ほどの例でいうと,三千万円+六百万円×二人=四千二百万円が基礎控除額となり,遺産総額が六千万円で基礎控除額を上回っているので,相続税がかかることとなります。
その一方で,様々な税負担軽減の制度もあります。例えば,配偶者については,法定相続分まで又は一億六千万円までの財産を相続しても,相続税がかかりません。また,自宅建物を相続する場合や相続人が未成年者や障害者の場合に税額が控除される制度もあります。もっとも,これらの制度を利用するには一定の要件を満たし,また手続きをする必要がありますので,注意してください。
生前からの相続税対策について言うと,まず,生前贈与の活用が挙げられます。例えば,年間百十万円までの贈与には贈与税がかからないし,その他にも,配偶者や子,孫に居住用不動産取得の資金を贈与する場合に贈与税が軽減される制度などがあります。
その他の例としては,例えば活用していない土地に賃貸建物を建てて活用したり,生命保険を利用する,個人事業主については法人化する,といった方法も見られます。
この辺については,税理士の領域です。税制は比較的短期間で変わり,またその方の資産内容によって対策も変わりますので,信頼のおける税理士とよく相談してください。
相続でやるべきこと
2015年5月 ホワイトペッパー掲載
今回は,いざ身内が亡くなった時の注意点についてまとめてみました。
まず,喪主を決め,滞りなくお葬式をあげ,故人を無事に送り出してください。
この時,香典については,きちんと香典帳を保管し,管理してください。香典は,相続人間で分割の対象となる扱いになることも多く,この管理が杜撰だと香典を巡って紛争となることもあるので,注意してください。
さて,葬儀も終わると相続について考えなければなりません。まず,相続人を確定するために故人の戸籍をたどります。
この戸籍は,原則として故人の生まれた時まで遡って取得します。ところが,この戸籍をたどる作業が一苦労です。戸籍は,これまで民法の改正,また戸籍の電子化などによって何度か作り直され,その度に古い戸籍は閉鎖され,新しい戸籍が作られました。こうした閉鎖された戸籍も故人が生まれた時に行きつくまで取得します。しかも,古い戸籍は手書きで,非常に読みにくいものもあります。
こうして取得した戸籍に従って親族関係図を作り,相続人が確定します。
これと並行して,被相続人の財産関係を調査します。この時,財産だけではなく,負債についても調査してください。もっとも,負債については本人が隠している場合もあります。消費者金融や銀行からの借入については,CICやJICCといった信用情報機関から情報を取得して確認することができます。
そして,仮に負債が多い場合は,相続放棄も検討しなければなりません。相続放棄は,自己のために相続があったことを知った時から三か月以内に家庭裁判所で手続きをする必要があります。
このほか,遺言書の有無も調査する必要があります。故人が生前話していたことを頼りにする場合もありますし,公正証書にしている場合は,全国の公証人役場で検索できます。
遺産分割協議
2015年5月 ホワイトペッパー掲載
前回に引き続き,遺産についてお話します。
まず,遺産は,被相続人の死亡時に,それぞれの相続分に応じて相続人に相続され,相続人全員による共有状態となります。
実は,現金もこの共有状態となり,遺産分割の対象になるというのが最高裁判例です。預貯金の法的な扱いについては前回田村弁護士の説明がありましたが,預貯金と現金との法的な扱いが違うので注意が必要です。もっとも,銀行の取り扱いで預貯金の引出しには相続人全員の同意を必要としているので,実際上の違いはあまりありません。この辺がさらにややこしいところです。
次に,遺産を処分したり,どの相続人がどの遺産を受け継ぐかを具体的に決めなければなりませんが,それが遺産分割手続きとなります。まず相続人間で話し合う(遺産分割協議)ことから始めるのが一般的です。
もっとも,相続人間で話し合っても話がまとまらないことも多いと思います。
その場合,家庭裁判所に調停を申し立て,その手続の中で話し合うことができます。さらに,この遺産分割調停でも合意できなかった場合は,審判手続によって裁判所が遺産分割方法を決定することになります。この遺産分割調停の申し立ては,相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います
さて,遺産分割協議をしようにも相続人の一人が行方不明ということもあると思います。七年以上生死不明の場合は,家庭裁判所で失踪宣告の手続きを取ることもありますが,一般的には不明者について家庭裁判所で不在者財産管理人を選任してもらい,この不在者財産管理人を相手方として調停を行うこととなります。ただし,費用が一般的に十万円単位でかかるのと,不在者財産管理人の権限が限られているので,一般的に柔軟な調停が難しくなりやすいと思います。
いずれにしても,遺産分割はあまり放っておかず,早めに行ったほうがいいと思います。早めに専門家にご相談ください。
違憲審査制
2015年6月 ホワイトペッパー掲載
よく,最高裁が憲法の番人だと言われますが,実は裁判所がすべての憲法問題について判断しているわけではありません。
日本国憲法では,裁判所に国の法律や行為が憲法に違反するかどうかを判断する権限を与えているというのはご存知と思います。この違憲立法審査権の性格については,その国の体制によって大きく二つに分かれ,日本国憲法での違憲立法審査権は,個別具体的な訴訟事件を解決するために必要最小限度で認められるものとされています。
さて,この違憲立法審査権について,少し考えてみましょう。当たり前のことですが,裁判所の裁判官は選挙で選ばれるわけではありません。一方で,国会議員は選挙で選ばれ,国会議員が国民の代表と言われたりします。違憲立法審査権とは,法律が憲法に反するときに無効とするものです。法律は国会で作られますから,違憲立法審査権とは,国民の代表者が作った法律を選挙で選ばれたわけでもない裁判所が無効にすることを意味し,その意味で民主主義の例外とされます。
なぜ,そのような権限を裁判所に与えたかというと,民主主義とはつまるところ多数決で,多数者の意見が通りやすくなる。しかし,多数決原理では,その一方で少数者の人権が蔑ろにされやすくもなり,そうした少数者の人権は,多数決や国民の意思に縛られない裁判所によって救済するべきと考えたからです。
もっとも,裁判所が何でも違憲としてしまうと却って国政が混乱することもあります。国の基本に関する高度に政治的な問題は,むしろ主権者である国民に選挙等を通じて判断してもらうのがいいだろう,この場合に裁判所は憲法判断をするべきではないとする考えがあります。これを統治行為論と言います。
ただし,誤解してはいけないのは,裁判所では判断しないとしただけで,裁判所が合憲とのお墨付きを与えたわけではありません。むしろ,国民が厳しい目で国の行為が憲法に適合するかを監視しなければならない,ということを意味しているのだと思います。
医療同意
2015年7月 ホワイトペッパー掲載
先日,私の父が胃がんの手術をしました。手術に際し,病院から本人か家族の同意を求められますが,ふとこの同意の法的性質について気になり,考察してみました。
身体を傷つける医療行為(侵襲的医療行為)は,人の体を傷つける以上,刑法の傷害罪や民法の不法行為に表面上該当します。ただ,患者が自分の意思で同意することから違法性がない(阻却される)と考えます。最近では,さらに医療行為に対する患者の自己決定権(憲法一三条。)も重視されています。
このようにみると,患者本人が医療行為の意味やその結果を理解でき,同意できる場合は,原則として本人の同意が必要になります。
もっとも,実際には,本人ではなく家族の同意を求められることもあります。前述のように,手術における同意が本人の医療行為に対する自己決定だとすると,本人のみが決められることで,家族が同意できる問題ではないようにも思えます。通常は家族が本人の利益や希望を最もよく知り得,本人の意思を反映できることから家族の同意で足りるとしているのだと考えられます。
さらに,本人も同意する能力がなく,また家族もいない場合は問題です。まず,生死に関るような緊急時に必要な措置を行うことは,緊急避難として当然許されます。また,最近では,成年後見人がいる場合には一定の医療行為について成年後見人が同意できるとの意見も出てきていますが,まだ一般的ではなく,通説では否定されています。
この点,厚生労働省のガイドラインでは,医療・ケアチームを作り,患者に代わって最善の治療方針を慎重に判断するとしています。あくまでも個人的な見解ですが,前述のように医療行為に対する患者の同意が患者の自己決定権に基づくものであり,医療・ケアチームの判断がこれに代わるものだとすると,医療・ケアチームでの検討は,本人に同意能力があった時の価値観や好み,本人の幸福,生活の質などを考慮した上での最善の利益を追求するものであるべきと思います。
B型肝炎訴訟
2015年9月 ホワイトペッパー掲載
昭和二三年七月一日に予防接種法が施行され,この法律に基づいてすべての国民,住民が集団予防接種を強制されました。その際,注射器が使いまわしされたためにB型肝炎ウィルスに感染した人が現れ,こうした感染者は国の推計で四〇数万人ともされます。
平成一八年に最高裁判所において,こうした集団予防接種によってB型肝炎ウィルスに感染した方に対して国が補償するべきとされ,その後平成二三年に国との間で保障についての基本合意が成立し,また平成二四年には給付金を交付する特別措置法が施行されました。
もっとも,今回の補償は,集団予防接種によって感染した方を対象としているので,補償を受ける要件があります。
まず,今回の補償の対象は,昭和一六年七月二日から昭和六三年一月二七日までに生まれた方とされます。前述の平成一八年の最高裁判決では,B型感染ウィルスに感染したのち持続感染化するのは,免疫機能が未発達な幼少期,少なくとも六歳頃までに感染した場合とされました。前述のように,予防接種法が施行されたのは昭和二三年七月一日で,それ以降国の責務で集団予防接種を行うこととされましたが,この時点で六歳以下だった方が今回の補償の対象となります。
また,母子感染ではないことも必要です。そのため,母親がB型肝炎ウィルスに感染していないことを示す母親の検査結果が必要です。仮に母親が死亡しており,血液検査等ができない場合であっても,年長の兄弟のうちに一人でも持続感染者でない方がいる場合には,母子感染ではないと推認します。
そして,必要な証拠書類を集めたうえで国を被告とする国家賠償請求訴訟を裁判所に起こし,国との間で和解をする必要があります。今回の補償を受けるには,この訴訟手続が必要となりますので,弁護士に依頼しないと難しいと思います。給付の手続きなどについては,専門家にご相談ください。
扶養義務
2015年10月 ホワイトペッパー掲載
老後に,子供の一人に面倒を見てもらいたいということも多いでしょう。
「扶養義務」という言葉を聞いたことがあると思います。もっとも,この「扶養義務」の意味も様々です。まず,親の未成熟の子を養う義務や夫婦間で互いに扶養しあう義務は,一般的に「生活保持義務」といいます。これは,自分の生活程度を引き下げてでも相手方に自分と同程度の生活ができるようにする義務とされ,俗に「最後のパンの一切れまで分け合う義務」と言われます。これに対して,これ以外の親族間での義務,例えば子が親を扶養することや兄弟間での扶養などは,一般的に「生活扶助義務」と言われ,これは自分になお余裕がある場合に負う義務とされます。先ほどのパンの例でいうと,自分たちがパンを食べてさらに余りがあれば分けてあげる義務,と考えればわかりやすいでしょうか。
よく,「長男だから親の面倒を見るのが当然」とされることも多いですが,法律的には必ずしもそうではなく,子供達で平等に親の扶養義務を負います。長男だけが扶養義務を負うとか,他家に嫁いでいるから扶養義務を負わないということもありません。
このように,子供が何人もいる場合は,それぞれの資産や収入などに応じて平等に扶養義務を分担します。子供たちの間で誰がどのように扶養するかは,第一次的には当事者間の協議で決め,これで決まらない時は家庭裁判所に決めてもらうこともできます。
さて,仮に子供の一人が親を引き取って面倒を見,親の生活費などを立替えた時,立替えた分を他の兄弟に請求できるでしょうか。
前述のように,子はその資産や収入に応じて平等に親の扶養義務を負います。したがって,子の一人が親の生活費を立て替えたときは,他の兄弟に自分の負担割合を超える部分を請求できます。仮に,その分担の割合などについて話し合いがつかない時は,家庭裁判所に決めてもらうこともできます。
賃料不払
2015年11月 ホワイトペッパー掲載
私が紋別に来てから四年になりますが,その中でも家やアパートの部屋を貸している大家さんから,賃料を払ってもらえないという相談は比較的多ように思います。
最近では,こうした場合に備えて,契約書で,賃料滞納があった場合に,大家が借主の承諾がなくても部屋を施錠したり,部屋に立ち入ったり,さらには部屋に残された物品の処分ができるとする条項を設けている場合があります。しかし,いくら契約書に書いてあっても,これらは,民法上の不法行為になり,また犯罪行為にもなりかねません。
まず,権利を侵害された人が,裁判上の手続きを経ないで自らその侵害された権利の回復を図ることを,自力救済と言います。
先ほどの賃料滞納の例でいうと,大家は借主に対して賃料を請求でき,借主が賃料を払わないのは,大家の賃料請求権を侵害することになります。そして,大家が借主の賃料不払いを理由に賃貸借契約を解除すると,借主は以降建物の占有権を失うので,本来直ちに建物から荷物を持ち出し,退去しなければなりません。それにもかかわらず部屋に居座ると,大家の所有権を侵害することになります。
そして,大家が,借主の賃料不払いを理由に部屋に立ち入ったり,部屋の中にあるものを持ち出して勝手に処分するのは,こうした侵害された大家の権利を自ら回復することですので,前述の自力救済にあたります。しかし,この自力救済は,法律上禁止されます。これを,自力救済の禁止と言います。
裁判例でも,こうした自力救済について,たとえ契約書に記載があっても許されず,こうした自力救済を行った場合は,大家は賃借人に賠償しなければならないとしています。
したがって,こうした賃借人の賃料不払いがある場合は,相手方の同意を得て退去してもらうか,そうでなければ訴訟を提起し,判決で賃料の支払いや建物からの退去を命じてもらう必要があります。そして,賃借人がそれでも応じない場合は,さらに裁判所に強制執行を申し立てる必要があります。
不貞行為③
2016年1月 ホワイトペッパー掲載
これまでも何度か不貞行為や離婚の法律問題について触れてきましたが,最近,芸能界でも,べ○キーさんの不倫が問題となっているなど,何かと話題のようです。
夫婦は,互いに貞操を守るよう要求する権利があり,また平穏な婚姻生活を送る権利があります。不貞行為は,こうした権利を侵害するもので,民法上の不法行為となります。
不倫は,当然一人ではできず,必ず不倫の相手がいます。その不倫の相手方は,不倫をした夫と共同で妻の権利を侵害しているので,不倫をされた妻は,不倫相手に対しても損害賠償(慰謝料)を請求できます。
ただし,例えば,夫婦関係が夫の不倫行為と関係なく,不倫行為以前からすでに破たんしていた場合は,不倫の相手方に対して慰謝料を請求することはできません。
また,不倫相手が婚姻の事実を知らなかった場合は,そもそも不法行為の認識がないので,やはり損害賠償は請求できません。
今回の例でいうと,相手の川○さんが婚姻していることを隠していたとの報道もあり,仮にベ○キーさんが川○さんが婚姻していることを知らずに独身と思って交際したのだとしたら,損害賠償義務を負いません。
さて,そもそもベ○キーさんは,今回のことについて,ただの友人として不貞関係を否定しています。今回の例で実際どういう関係だったのかはさておき,このような「親しい友人に過ぎない」との主張は,実際の調停や裁判の場でもたびたび見られます。
不貞の事実は,請求する側で立証しなければなりません。例えば,二人がラブホテルに入っていくところが証拠としてある場合には,通常不貞行為が推認されます。また,最近では,メールやLINEのやり取りも重要な証拠です。職場の同僚で,悩み事を相談していたにすぎない,という主張もよくされますが,職場外で,しかも二人きりで頻繁に密会しているといった場合は,通常の職場での関係を超えて密接な関係にあるとして,少なくとも交際は推認されやすいと思います。
覚せい剤
2016年2月 ホワイトペッパー掲載
ここ数年,有名人が覚せい剤使用で逮捕されるニュースが後を絶ちません。
覚せい剤が,戦前,戦中,日本で一般的に売られていたことは,ご存知の方も多いと思います。「ヒロポン」や「アゴチン」といった商品名で販売されており,当時の広告を見ると,「倦怠眠気除去」「作業能率の増進」などとその効能が書かれています。
覚せい剤は,使用すると眠気を取り去り,疲労感をなくし,気分を高揚させ,行動的にさせる,などの効果があるようですが,それは言ってみれば一時的に脳や体に無理をさせているだけで,効果が切れると激しい抑うつ,疲労倦怠感などに襲われるそうです。また,使用により幻覚や妄想などの症状が現れ,攻撃的,暴力的になるとも言われ,しかも依存性も高い等,一度使うと長期にわたって深刻な問題を引き起こします。
戦後,こうした覚せい剤使用による問題が深刻になり,昭和二六年に法律で禁止されました。
私も,薬物使用者の弁護をすることが多く,その関係で,以前ダルクという薬物依存者の更生施設に行って話を聞くことがありました。そこの方々の話によると,薬物を一度使うと段々以前の量では満足しなくなり,使う量が増えていく,覚せい剤なしでは快感を得ることができなくなるばかりか,かえって覚せい剤を使っていない状態が苦痛になり,また覚せい剤を使わなければならなくなるそうです。そうして薬物が手放せなくなり,身も心も人生もボロボロになっていくのです。
このように,薬物は一度手を出したら最後で,決して手を出さないのはもちろんですが,もし家族や知人で薬物をやってしまっている人がいたら,全国には薬物依存を扱っている病院,家族のための家族会,ダルクといった自助グループもあるので,早くそうした専門機関につなぐことが必要と思います。
相続人調査,遺言書
2016年3月 ホワイトペッパー掲載
前回の記事で,亡くなった方の預貯金を金融機関から引き出したりその他財産を処分するには,相続人全員から署名と印鑑をもらう必要があるというお話がありました。
誰が相続人にあたるかは戸籍謄本で確認できますし,またどこに住んでいるかは住民票を追跡することである程度把握することができます。結婚をしていたりお子さんがいる方だと比較的住民票をきちんと移していることが多いですが,中には何らかの理由で行方をくらましたり,途中から住民票を移してなく現在の居所を把握できないということも少なくありません。それでも,行方不明の人もやはり相続人であることに変わりないので,相続において無視することもできません。そこで,その行方不明者について法律上死亡したことにしてしまう手続や,行方不明者に代わって手続きをする人を置く手続をとる必要があります。
行方不明の相続人が,すでに七年以上にわたって生死不明の場合は,家庭裁判所で失踪宣告の手続きを取ることができます。これにより,行方不明者は法律的に死亡したものとして扱われますので,その人を除いた相続人で手続きをすることができます。失踪期間が短いといった理由で失踪宣告を使えない場合は,行方不明者について家庭裁判所で不在者財産管理人を選任してもらい,この不在者財産管理人を相手方として遺産分割協議を行うこととなります。失踪宣告に必要な費用はそれほど高くありませんが,不在者財産管理人については不在者財産管理人に支払う報酬が必要になりますので,私の経験からすると十万円単位で必要になります。
こうしたトラブルを避けるためにも,ご自分が亡くなったらその財産はどうなるのか,誰が相続人となるのかを考え,遺言書をあらかじめ作っておく,又は財産を残したい人に生前贈与しておく,といった方法をとられることをお勧めします。
認知症高齢者鉄道事故
2016年4月 ホワイトペッパー掲載
先日,在宅介護を受けていた高齢者(仮に「A」とします。)が,家族の目を離した隙に家を抜け出し,線路に降りて電車と衝突し,鉄道会社から損害賠償を請求された事件について最高裁での判決がありました。
まず,法律関係について説明すると,故意又は過失によって他人の権利等を侵害し,損害を発生させた場合は,損害を賠償しなければなりません(民法七0九条)。もっとも,本人に責任能力がないと本人は賠償責任を負いませんが,その場合は本人の監督義務を負う人(監督義務者)が代わりに損害を賠償することになります(民法七一四条)。
さて,本件のAは妻と同居し,主に長男が介護方針を決め,長男の妻が介護にあたっていました。裁判では,このAの妻と長男とが監督義務者に当たるかが問題となりました。
高裁は,長男はAと離れて暮らしていたので監督義務者には当たらないが,Aの妻は,夫婦間の協力義務,扶助義務(民法七五二条)を根拠に監督義務者に当たるとしました。その上で,Aが以前営んでいた事務所側の入り口センサーを切っていたことが過失に当たるとして,Aの妻に賠償を命じました。
これに対して最高裁は,同居する夫婦だからといって当然に監督義務者に当たるわけではないとしたうえで,Aの妻は身体に障害がありAを実際に介護することが困難だった等として,監督義務者に当たらず,損害賠償義務はないとしました。
最高裁の判断は,高裁と比較してより介護者の負担を重視した結果ではないかと個人的に考えています。高裁で過失とした入り口センサーを切っていた点についても,今回判断した最高裁の裁判官の何人かは過失には当たらないとの意見を述べています。
今回の最高裁判決については,実際に介護に当たっている方の関心も高いところと思います。紙幅の関係でここでは十分に説明できませんが,各事業所などで専門家を交えて今回の最高裁判決を検討してみてはいかがでしょうか。
借用書
2016年4月 ホワイトペッパー掲載
知り合いにお金を貸したときに,借用書を作っていないということも多いでしょう。
お金を貸すことは,法律的に言うと金銭消費貸借契約の締結になります。契約は,金銭貸借の合意と相手方に元本となる金銭を交付することによって成立します。借用書がなくても契約自体は成立しているので,相手方に返済を請求できますし,相手方が借金を認めて払うのであれば問題はありません。
問題は,相手方が借金をしたことを認めず,支払いもしない場合です。貸金の返済を求める場合,貸主がお金を貸したことを証明しなければなりません。借用書は,このときに貸金の存在を証明する証拠となります。もっとも,証明の方法は借用書に限られるわけではなく,例えば銀行口座から相手方に送金した記録があるとか,立ち会っていた知人の証言がある,日記やメモにお金を貸した事実や条件を書き残してある場合にも,貸付の証明となることもあります。
知り合いにお金を貸すときに,特に返済期限を決めないことも多いと思います。法律では,返済期限を定めていない場合,貸主は,いつでも相当な期間を定めて返済せよと請求できます。この相当な期間がどれくらいかは,法律上特に明記されていませんが,おおよそ一週間から二週間程度が相場と思います。
もっとも,いつでも請求できるからと言っていつまでも請求していないでいると,消滅時効によって請求できなくなることもあります。返済期限の定めがない場合,契約成立後相当期間を経過したときから一〇年(商人の事業資金の金銭消費貸借等の場合は五年)経つと消滅時効となり,相手方に時効によって消滅していると主張されると返済を請求できなくなります。この時効の進行を止めるには,相手方から返済を受ける,債務承認書を取り付ける(債務承認),または裁判所に訴訟を提起する(請求)などの方法があります。